平成26年12月17日、平成26年度の行学道場を、大阪市内の「ホテルアウィーナ大阪」にて開催致しましたところ、遠近より総勢74名の方々にご参加を賜り、大変賑やかな行学道場を開催することが出来ました。
今回、一つの試みとして、講師による講演に先立ち、第一部に「ムダ話をしよう」と題したグループトークの時間を設けました。私たちは、色々な会議の席に於いて様々な議論を交わしますが、そんな会話の中、一見ムダと思えるような話の中に、案外、大切なキーワードが隠れていることがあったりします。せっかく全国各地から多くの青年僧が集まるのですから、地域や年齢、肩書きの異なるメンバーで、それぞれのお寺での取り組みや、僧侶としての悩み、各地で起きている様々な事例、お寺を取り巻く環境の変化などについて、肩肘を張らず、じっくり意見を交わすことができればと考え、企画致しました。開場式の後、参加者の皆様には、12~3名のグループに別れて頂き、昼食を召し上がって頂きながら、90分間のフリートークを実施致しました。トークテーマは特に定めず、グループ毎に自由な話題で話して頂きましたところ、お寺の現状報告、次世代への教化活動の具体例、インターネットの活用法、お寺の公益性、地域への開放、檀信徒の心に響く仏事の在り方など、どのグループにおいても、非常に多岐にわたるテーマで活発なトークが繰り広げられ、大変有意義な時間となりました。

02

第二部には、神戸女学院大学名誉教授の内田樹先生を講師にお招きし、「これからの時代に僧侶やお寺が担うべき役割とは」と題してご講演を賜りました。(内田先生の講演内容はこちらからダウンロードできます)

まず内田先生は、世界各地で急速に進行しているグローバル化の影響で、日本の教育や思想が劣化していることを、大学での英語教育などの例を挙げてお話し下さいました。しかし、日本各地でグローバル化が進行する一方、3.11以降、直感的、身体的、動物的に危機感を抱いて都心部から地方へ移住し、その地で農業や地場産業に従事する若者達が非常に増えており、その際、宗教が彼らをその土地に定着させるという役割を大きく担っているのだそうです。行政や企業の取り組みでは、成果主義により、単年度や四半期などといった短いスパンで結果を求められ、また経済効果など数値化できるものでしか評価できないため、若者の地方回帰や地域振興に継続的に大きく力を注ぐことは難しいのですが、宗教施設は地域住民に等しく開放された公益のための施設であり、また、金銭目的ではなく、慈悲に基づく活動こそが宗教者の役割であるため、数値的な成果を優先することもない。そして何より、宗教は長い歴史と永続性を持つので、長期的に人々の拠り所となることができる。こういった宗教施設が地域の拠点となり、地方回帰する若者達の定着を助けているのだと、様々な地域において宗教が果たしている役割について、実例をご紹介下さいました。
私たちは、所謂「三離れ」の原因は、人々の生活様式や価値観の変化が大きな原因であると考え、どうすれば人々がお寺を訪れるか、その方法論ばかりを考えがちです。しかし、お寺は本来、先述のような要素を有し、地域拠点になり得るものであるはずです。内田先生は、この「道場」という空間を清浄に保つことが出来ていれば、若者の地方回帰を支える宗教施設のように、自ずと人々は、身体的、直感的に清浄な場を求めてお寺を訪れるはず。また、そういう清浄な空間こそが人々の霊的な成熟度を高めることが出来る大切な場であり、そこを守ることこそが僧侶の大切な役割である、と仰いました。グローバル化など日本社会の急激な近代化に比べると、私たちが連綿と継承してきた法燈は遙かに長いはずです。継承した法燈を絶やさず、その霊的に清浄な空間を守ることの大切さを、あらためて強く自覚することが出来ました。また、内田先生ご自身が主宰なさっている合気道の道場「凱風館」での具体例を挙げ、その「場」に対する敬意がないと清浄な空間が汚れるといったご指摘もありました。私たちは常々自坊の本堂において、惰性ではなく、常に空間に対して敬意を抱いて給仕に励んでいるでしょうか。私たちの日々のお給仕や僧侶としての振る舞いについて、反省するよい機会ともなりました。
最後になりましたが、全国各地よりご参加下さいました皆様、また、今回の行学道場開催に当たり、物心両面にわたり並々ならぬ御厚情を賜りました皆様に、この場をお借りしまして、厚く御礼申し上げます。平成27年度も、よりよい行学道場が開催出来ますよう力を注いで参りますので、是非とも次回もご参加、ご支援を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。

01